世界のアニメーションシアター WAT2016予告編世界のアニメーションシアター

林緑子さんが感じたWAT2016

プロフィール/林 緑子(はやし みどりこ) 2000年から短編アニメーション自主上映会「ANIMATION TAPES」を開始。
2012年から、名古屋市内に上映+カフェスペース「シアターカフェ」(http://www.theatercafe.jp/)を江尻真奈美と共に運営。
カフェシアターのtwitter https://twitter.com/theater_cafe?lang=ja
カフェシアターのブログ「カッパとリンゴ」 http://theatercafe.blog.fc2.com/

全体について

現代は、デジタルの映像技術が発達してきたおかげで、実写とアニメーション、デジタルによる特殊効果の見分けがつかない映像作品が増えています。3DGアニメーションなのか、コマ撮りされたストップモーション・アニメーションなのか、特撮なのかVFXなのかなんて、ストーリーとキャラクター中心に映像を観る場合、どうでも良いことかもしれません。でも、お話を楽しんだら、ぜひもう1回、どんな技術で作っているのか、気にしながら観るのも楽しいと思います。映像作品は、視点を変えて何度か観ることで、前にはない発見ができます。使用されている技術や絵柄などの造形、演出などからも、文化や歴史などの違い、今の流行りなどが、透けて見えてくるのではないでしょうか?
WAT2016の上映作品は、さまざまな新しい技術と従来の技法が、モザイク状に入り混じり、ストーリーとキャラクターを支えています。
ただ時間をつぶすのではなく、豊かな時間を過ごすために観ることができれば、鑑賞体験が、よりすてきな思い出になるのでは。

ビトイーン・タイムズ

桑畑監督とポーター監督がアーティストインレジデンスしていたオランダのNIAF(Netherlands Institute for Animation Film)のスタジオにて、制作中の様子を見学させてもらったので懐かしいです。
手作り感のあるCGアニメーションです。3DCG(3Dコンピュータグラフィックス・アニメーション)と背景・大道具などのコマ撮り映像を緻密に 組み合わせ、埃や光の細かいエフェクトがかけられた、丁寧で手のかかった作品です。
鳩時計の定点観測による身近な人々の生活と、人により時間の流れの感じ方が違うということ等がテーマになっていて、身近な日常に加え、鳩時計の視点があるので客観性もあり、ユーモアと愛情の感じられる人間観察ストーリーでした!

ギーダ

真面目に生きてきた大人の女性の自己実現がテーマになっていると思いました。
ふんわりとした軽やかな動きで、メキシコの現代美術を代表する女流画家フリーダ・カーロやアメリカのシュルレアリスト画家・映画監督マン・レイなど、絵画、写真、カートゥーンなどの様々な過去の平面作品のイメージも溢れています。
手描きで制作されたアニメーションは、技術を習熟しているからこそ作ることができる、目に心地いい動きでした。

(Otto) - オットー

幼い少女と子供の欲しい女性が、空想の子供という概念を共有する出会いのシーンに心が揺さぶられました。
この作品は、かわいらしくやさしい色合いの3DCG(3Dコンピュータグラフィックス)イメージで、ソフトな印象の作品です。また、現実に存在しない者の生命感を描くことで、存在の不確かさ、価値観や視点の多様性、信じることで生まれるもの等、いろいろなテーマ性を感じました。

ちいさな芽

親子でも観てほしい、絵本のようなアニメーションでした。
音楽も絵柄も、おもしろくのびのびとしていて、観ていると自由な感覚が広がります。

真逆のふたり

心が離れてしまった夫婦を、愛情とユーモアたっぷりに描いた人間ドラマです。ラストは暖かい気持ちにさせられました。
深く考えずに観ると、あれ?3DCGかな、と思うような、細かい作りの人形アニメーション作品です。人形から小道具に至るまで細密な作りで、大がかりなセットということを考えると、とても学生作品とは思えません!

触感のダンス

コンテンポラリーダンス好きなら、コンタクト・インプロビゼーション!(※)と思うような、カップルの絶妙な動きが心地よいです。動作や音が波となって相手に届く、独特で繊細な描写も、魅力のひとつ。
※ 注)コンタクト・インプロビゼーション:Contact Improvisation。振付家でダンサーのスティーヴ・パクストンが始めた、重力を意識しつつパートナーと身体の接触を続けるデュエット形式が中心の即興パフォーマンス。/アートスケープ http://artscape.jp/index.htmlのアートワード(執筆:木村覚)より。

サンティアゴ巡礼

旅の途中で出会う人々と、楽しいひと時を過ごしても、最後は一人。聖地巡礼と人生が対比的に描かれ、明るくカラっとした哀愁がありました。
日本の商業アニメでも増えている、3DCG(3Dコンピュータグラフィックス・アニメーション)を2D(2次元)に見える表現を使用したキャラクターのアニメーション。パステルや色鉛筆で描いたような質感を保ちつつ、新しい技術をうまく使っています。
手描きと3DCGの2D化されたアニメーションは、よく見ると少し違っているので、絵の造形や動きに注目して鑑賞してみては。

アフガニスタン - 戦場の友情

死の危険が肌身に感じられる状況で、他者を信じることの難しさを考えさせられました。戦争の悪者は誰なのか、簡単には答えられないと実感させられます。

ホワイトテープ

白いテープで現された、眼に見えない領土の境界線。安定しないテープは常に揺れ動き、敵味方の互いに走る緊迫感や不安が伝わってきます。
『ホワイトテープ』と『ブラックテープ』は実写のビデオの上に絵が描かれているとのことで、ロトスコープ(※)なのでしょうか。荒い描画が内容に対して効果的で、デジタル描画なのか、もしくはアナログで画材を使用しているのか、技法にも興味が沸く作品です。
※ 注)ロトスコープ:Rotoscope。ロトスコープは実写映像をベースにしてアニメーション映像を作り上げる技法である。発明したのはのちにフライシャー・スタジオを設立するフライシャー兄弟の兄マックスで、1917年に特許を取得している。/アートスケープ http://artscape.jp/index.htmlのアートワード(執筆:土居伸彰)より。

ブラックテープ

兵士と活動家の足がテープで繋がったり離れたりしつつ、ダンスを踊るように動きます。対立構造が含まれていて、それが、タンゴのダンサー間における愛憎の緊張感に比喩されているようで興味深かったです。

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